インセプション 感想と考察 コブが彼の深層心理で見つけたもの

SF

インセプション

あらすじ

主人公コブはある事故により妻を失い子供たちと離れ離れとなってしまった。
他人の夢の世界から情報を盗む稼業を営むコブは子供たちとの暮らしを報酬にある依頼を請ける。
それは他人の潜在意識にある考えを植え付ける「インセプション」と言われるもの。

コブは対象者の深層心理に潜り込みながら自分でも気がついていなかった本当の自分を知ることになる。

キャラクター

ドミニク・コブ

子供に会いたい一心で無茶な依頼を引き受けた主人公。

サイトー

今回の依頼「インセプション」の依頼者。

アーサー

コブの冷静沈着な相棒。2階層目の夢の設計者。

モル・コブ

コブの妻。ある事故により死亡しているが、コブの夢に潜在意識の投影として現れる。

アリアドネ

今回の依頼にあたって雇われた大学生。1階層目の夢の設計者。

イームス

ちょっとふざけた態度だが有能な男。
夢の中での変装を得意とする。
3階層目の夢の設計者。

ロバート・フィッシャー

「インセプション」の対象となる人物。

トーテム

自分自身しか知らない小物。
コブの場合はコマ。
現実と夢を区別するために使われる。

虚無

最下層の深層心理。何もない精神空間。人間の意識は霧散し無秩序に還る。

ネタバレ

考察

夢のルール

この作品の夢は単純ですがいくつかルールがあります。

その1 夢は潜在意識が顕在化した世界

夢の中にいる者の感情と深く結びついた潜在意識が顕在化するため仮に現実世界で認識できていない欲求や感情でも夢には現れます。
通行人などは潜在意識が顕在化したもので彼らに気づかれると夢から追い出されます。

その2 夢の中で死ぬか上位層からの衝撃等で覚醒できる

通常の夢であればその中での死と上位層からの衝撃で起きることができます。
しかし強力な鎮静剤などで昏睡している場合は夢のなかで死ぬと深層心理へ落ちていきます。

その3 現実を模倣してはいけない

例えば街の細部だけであれば夢の中で再現しても構いませんが、街全体再現すると現実との区別を失い現実へ戻ることができなくなります。

夢の構造

階層構造

夢の世界は階層構造となっており、階層が深ければ深いほど深層心理まで潜ることができます。
例えば夢の中で夢を見るという体験がありますが、それです。
深い階層に行けば行くほど精神は研ぎ澄まされ上位層より時間が速く進んでいきます。
より深い第三階層の夢の20分は一つ上の第二階層の夢の2分といった感じです。
つまり現実で数分しか眠っていないつもりでも最も深い虚無では永遠のような主観時間を過ごすことになってしまいます。

インセプションはかなり深い階層まで潜らせる必要があり、その対象に夢と夢の境目を分からなくさせないと覚醒されます。

今回は第四階層まで潜っていきます。
サイトーとロバートが鎮静剤を使用した夢の中で死亡した際、この階層まで潜ってきたので恐らく意識を保てる最下層、虚無。
コブがモルと50年過ごした階層です。
留まりすぎると精神は秩序を失い消滅します。

夢だと気がつくのは夢から覚めてから

夢の中ではどんなに奇妙なことが起きてもそれが夢だと分かるのは夢から覚めてからです。
コブのチームは夢であることを始めから自覚している、ロバートは特殊な訓練を受けているので夢だと認識しても覚醒はしません。

夢は主観により構成される

夢の設計者は自身の夢の中で基本的にどんなことでも起こせます。
ただし現実や上位階層の夢からの揺れや音は下の層の夢に影響を与えます。コブのチームはその特性を利用し音によって覚醒のタイミングを計っていました。
他にも潜在意識に深く刻み込まれた感情や記憶を取り除くことが困難であるなど少なからず制約があります。

潜在意識の武装化

ロバートは特殊な訓練を受け、夢の中を武装しています。
彼の潜在意識が異物を取り除くべく攻撃し彼の夢から排除しようとします。

インセプション計画

コブのチームの夢の旅を振り返ります。
まずはインセプションの目的。
サイトーの経営する会社の競合企業を倒産させサイトーの会社の利益を守ること。
そのために競合企業の次期CEOであるロバートの潜在意識に会社の倒産を植え付ける。
この際ロバートと親密な関係にある実質的な経営者ピーター・ブラウニングとロバートを引き離す必要がある。

潜在意識の深い階層まで行くため、コブのチームとローバートに鎮静剤が投入されます。つまりこの場合夢の世界で死ぬと虚無まで落ちていきます。

第一階層

アリアドネが設計した夢の階層。
ここではロバートを誘拐、父との関係を見つめなおさせることとロバートの潜在意識にあるブラウニングとの絆を破壊することが目的。
ブラウニングをイームスに演じさせ悪人に仕立て上げた。

第二階層

アーサーが設計した夢の階層。
ここでロバートにコブが近づき言葉巧みに自分の力を試すという潜在意識を植え付ける。
さらに最終の第三階層への誘導を行う。

第三階層

イームスが設計した夢の世界。
ここが「インセプション」を行う深層にある潜在意識。
会社の倒産という考えを植え付ける。
既に潜在意識を誘導されたロバートは深層心理にある金庫へ自らの足で向い、この計画の最後の仕事「インセプション」を彼自身で行う。

第四階層

コブが設計した夢。
計画遂行かと思われたその時コブの潜在意識からモルが表れロバートを銃撃、ロバートはさらに深い潜在意識へと落ちていきました。
このままだと第四階層へと落ちていったロバートは夢から覚めず昏睡状態のまま植物人間になってしまいます。
今回の依頼を達成できなません。
失敗かと思われましたがアリアドネのアイディアでコブはさらに深い第四階層へ向かいます。

第三階層で少し先にこの階層に落下したサイトーの精神がかなり年を取っていたことを考えると上位層の第三階層の一瞬がこの階層の永遠の長さなのかもしれません。

第四階層で発見したコブの本当の潜在意識

コブはモルに「この世界は現実ではない」とインセプションしました。
それはモルが現実に戻ることを嫌ったため仕方なかったのです。
しかし現実に戻ったモルはその「この世界は現実ではない」という考えに執りつかれたままで夢から覚めるために自殺しました。

コブはそれを忘れられず、その潜在意識はモルという形で夢の世界に登場しコブに罪悪感を植え付けていました。

その罪悪感から避け続け、モルと過ごして以来一度も訪れていなかった第四階層に本当のコブの潜在意識がありました。
それはモルに対する本物の愛情です。

コブの夢に登場するモルはコブの意識が作り出した謂わば理想のモルの姿。
しかしその理想であるはずのモルをコブは否定します。

コブはモルに会いたいがためにその記憶を夢の中に閉じ込め、たびたびそこを訪れる習慣がありました。
その習慣がやめられずにいたため、コブの潜在意識にモルが出現していたのです。
しかし彼の潜在意識に現れるモルはあくまでもコブの理想であり本物のモルではありません。

「君は本当の妻の影でしかない」

コブは潜在意識の最下層、第四階層で本当の自分を知ったのです。
コブが愛していたのは、本当に会いたいのは、彼に都合がよく彼に作り出された理想の偶像ではなく、未熟で完璧ではないとしても本物のモルだったのです。

彼がモルだと思っていたものは少しもモルではなかった。
本物の愛に気づいてからコブはモルの幻影を克服します。

最後のコマ

コブは夢から現実へ帰ってきてコマを回します。
そのコマは止まりそうにも永遠に回るようにも見えました。

コブは夢の中で子供たちの顔を見ることを嫌っていました。
しかし最後の場面はトーテムのコマを回しただけでその先は確認せず子供たちのところへ向かっていきました。
子供の成長は想像を超えます。成長した子供たちの姿を見てしまえば夢と現実の区別は簡単についてしまったのかもしれません。

だからコマを確認する必要がなかった。

私はそう解釈しようと思います。これが定番の夢オチだったら嫌すぎるので。

感想

傑作のSFです。
この世界観と独特の夢の中の制約を使ったトリック。
夢中で見てしまいました。夢だけに。

夢はそれから覚めてから初めてその奇妙さに気がつく。
実際にそうです。
夢の中の奇妙さを夢の中では認識できません。
だとすると現実だと思っている今この瞬間も夢の中なのかもしれません。
今夢から覚めて「なんておかしな夢を見ていたんだ」と。

例えば引き寄せの法則とかバカげているように聞こえる話がありますが、この世界が夢だとすればこの世界の法則を支配するのは私たちの潜在意識である主観です。
本当はどんなことでも意識一つで引き起こせるのに、できないという思い込みがそれを妨げているのかもしれません。
夢の世界では物質ありきではなく意識ありき。意識が物質を作り出す世界です。

この世界が夢かどうかは置いておいて思考と意志が結果を引き寄せる経験ってありませんか?
私はあるんです。心の底から願ってやまなかったことが現実化した経験が何度かあります。
確かに努力はしましたが。

でも意志って非常に強力な力でバカにできない力だと私は思っています。私はできるじゃなくて、できたと思うようにしています。
こうなりたいと思った時点でもうなったも同じだと。
この物理世界ももしかすると夢のように物質ではなく精神が先だったのかもしれません。
精神を顕在化させるために作られた上位階層がこの物質世界。
宇宙に最初に出来上がったのはエネルギーの秩序と一貫性だったのかもしれません。
その一貫性のあるエネルギーは高度な知性で、その知性がこの世界を理解するために物質化という方向へ舵をきった。

私は潜在意識によって細部まで完璧に重い描くことができれば本当に現実化するんじゃないかと考えます。
周りにはただの前向きな奴としか思われていないですけどね。
それでも私は意志の力を信じています。もはや信仰です。

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