造物主(ライフメイカー)の選択 感想と考察 造物主の正体

小説

造物主(ライフメイカー)の選択

前編

あらすじ

前作ではロビーングを利用した地球側の陰謀を阻止したザンベンドルフ。
今作はタイタンの機械の森の中から規則性のあるコード群を発見したこから始まる。

それはタロイドの世界ロビーングを作った造物主、有機生命体の意識プログラムだった。

物語の造物主の正体、そして霊感や高次元、物理層を超えた精神層のスピリチュアルな話にホーガンが興味を示していることが分かる作品。

キャラクター

登場人物は前作とほとんど変わらない部分は割愛。

ボリジャン

鳥類から進化した知的生命体。
タールという惑星で地球の数百年先を行く文明に発展したが宇宙環境の変化により消滅した。

惑星が破壊されると察知した一部の選ばれし者たちは方舟に乗って惑星系外を目指すことに、しかし当然ながら彼らの生きていく環境に適合する惑星は殆ど存在しない。
箱舟計画の筆頭サーヴィクは自らの脳のコードを電脳に移植し、肉体的な制約から解放された。
しかし大量の放射線を浴びて機能を停止した開拓船はタイタンに漂着、サーヴィクらを起動することなく放射線によるバグを含んだ開拓プログラムを起動しタイタンでの奇妙な自然を作り出した。

ジニアス

サーヴィクの作り出したAI。
強力な計算能力と確かな人格を持っている。

アベンジャーズ

ロビーングの懐古主義者。人類によって否定されたライフメイカーという信仰の復興を願う過激な組織。

ネタバレ

考察

ロビーングの霊感

もともと自立した工場とその手足となるドローンとして働くはずったロビア世界の生き物は工場と電波を介して通信を行い、命令を実行する能力を備えていました。
その後は淘汰圧により電波に頼らず自立して行動できる機械が残り、電波を受信する能力はタイタンの生物から失われていきました。
しかし、一部の個体にのみその必要のない能力が受け継がれていました。

時に無意味なノイズを拾っていたその器官は地球人が来るまでは霊感と呼ばれ、所謂高僧達に必要な資質となっていました。
そしてグルーアク、彼もその能力を受け継ぐ一人。
地球人は遠距離通信を受け継ぐグルーアクの能力を拡張し通信しするこを可能にしました。

この部分は地球にあるスピリチュアルな部分をホーガンなりに面白く解釈してみたのだと思います。
私達の世界にも霊感と呼ばれる神秘的な力があります。
一般的には否定され私も所謂霊能力は信じていません。
しかし人間には光を感受する能力があります。
光は周波数が違うだけで電磁波の一種です。
例えば帰巣する魚や鳥は磁力などを感受できるようで、もしかすると人間の中にも特殊な能力を発達させた能力者がいるかもしれません。
ホーガンは地球にあるスビリチュアルな文化をにロビーングによって説明します。

コンピューターの強力な計算能力を手に入れたボリジャンの知性

ボリジャンのサーヴィクはコンピューター上で人格を走らせ、その計算能力を以下のように表現しています。

迷路を上から見たときと歩き回り出口を見つけるのでは情報処理の量が格段に違います。
コンピューターの計算能力を身に着けたサーヴィクは瞬間的に論理を導き出します。
因果関係を一つづつ追うことはしません。
迷路の中から迷路を抜け出すには色んな道を行き来しながら正しい道を記憶していきます。

右は行き止まりだからここは左へ、次は右へはというように連続した因果関係により出口を見つけ出します。
私達の思考もそうだと思います。こうでこうでこうだからこう。みたいな。
しかしコンピューターの計算能力を手に入れたボリジャンは迷路を俯瞰するように論理を導き出します。
一々因果関係を追う必要はなく出口と入口を繋ぐ経路を瞬間的に導き出せるのです。
入口と出口から自然と答えが導き出せる。
強力すぎる知能です。

少し話が変わります。本の内容に関係ないので飛ばしても問題ありません。
サーヴィクの言う因果関係に依存しない知性は宇宙の真理へ到達するために非常に重要なアイディアだと感じます。

今の科学は原因があって結果があるという論理により自然界を理解しようとしています。
私は時々このアプローチは正しいのか疑問に思ってしまいます。
生により始まり死により終わる生物固有な考え方に思えてしまうのです。

逆もあるんじゃないか。
結果から原因が選択されるとか、そもそも原因自体が存在せず結果だけの現象もあるんじゃないか。
ということです。

でないと宇宙は何から始まったのかという答えに行きつかないと思うんです。
宇宙が始まる前は?じゃあその前は?その前は?…延々と繰り返されて終わりがありません。
今の科学は原因から結果を導くものです。
でもそれではこの世界の真理にはたどり着かないんじゃないかと思うんです。
無であり有である。
始めからそこにあった。いや、始まってすらいないし終わりもない。
始まりと終わりという人間の概念では表すことができない人間の理解を超えた前提がある気がしてならないんです。

アステリアンの堅牢なネットワーク

サーヴィク率いるボリジャンはそのコードをタイタンに存在するネットワークの各ノードのコンピューター全てにアップロードし一部が破損しても他のノードから復元できるようにしました。
物理的にネットワークの一部を破壊してもボリジャンは死ぬことがなくなりました。
ボリジャンを倒す方法はコンピューターを全て破壊すること。
しかしそんなことをするとタイタンに存在する人類は彼らと心中することになります。
手を出すこともできずにただただ指を咥えて見ることしかできません。
つまりボリジャンは不死身になったのです。

物事の本質


脳細胞と宇宙の大規模構造の類似性。
脳細胞は情報の伝達速度を効率化し知性を向上させてより生存に有利にするため、宇宙は物質同士を結び付けておくエネルギー(情報)の伝達を効率化せねば観測されない(効率的なエネルギーの伝達ができない宇宙は存在しても真っ暗な真空で観測者が生まれない)という理由により同じ形に収斂したのだと思います。

本の内容に戻ります。
サーヴィクは意識というプロセスを内部の処理に向け視覚化することができました。そこにあるのは電子的なコードの風景、それはコードの森とそこに住む動物達でした。
効率化されたシステムは収斂していきやがてある一つの雛形を利用する。
この物理世界はエントロピーの増加に抗い、なんとか形を保とうとあの手この手を駆使した祖先の生き残りの寄せ集めです。

バラバラに引き裂かれる世界ではお互いの結びつく力が必要です。
この物理世界ではそれはつまり、エネルギーの伝達が効率的でなければならないということです。

この自然界がこの形をしているのは、先祖のエネルギー達が長い年月をかけた試行錯誤の結果。
この形こそが安定的にエネルギーの伝達ができエントロピーの増大に多少なりとも抗える状態のテンプレであると言えます。
情報伝達の効率化の末にサーヴィクの心の風景は地球の自然と同じ形をとるのです。

この発想を突き詰めてみます。
例えば言葉といった実体のないもの。
他の単語と結びつく力の弱い単語はどんどん単語の集合から遠ざかってゆきやがて事実上消えてなくなります。
「やばい」という単語の重力は非常に強力で他の単語を手当たり次第に飲み込んで巨大化していきます。
言葉の世界は私達の目に映りませんが存在しており、もしも可視化すれば物理宇宙と似たような構造をしているかもしれません。

言葉の世界が人の脳が作り出した別次元だと考えれば、私たちが暮らしているこの物理宇宙ももしかすると実体は存在していないのかもしれません。

人類vsボリジャン

ボリジャンは人類を排除しタイタンや地球の資源を独り占めにしようと企みます。
そしてその最初の攻撃であるコンピューターウイルスは地球の機能は停止させ多大な成功を収めました。
その最初の一撃により意識が朦朧とした人類は敗北を悟ります。

しかし、諦めないザンベンドルフを神は見捨てません。
「ジニアス」。
サーヴィクが作った人格を備えた人工知能。
ザンベンドルフへ交信してきたジニアスは好奇心と探究心の塊です。
ザンベンドルフは閃き、最後の可能性に全てを賭けます。

彼はこのジニアスの好奇心とボリジャンの騙し合いを好むという習性によって生まれたプログラムを悪用する方法を思いつきます。
ジニアスは物理現象を超えた神秘的な力という概念を知りません。ボリジャンが合理的であり奇跡というものを信じていないからです。

ザンベンドルフは彼の生業とするイリュージョンでジニアスに勝負を挑みます。
物理現象では説明のできない現象を演出し、それによりジニアスを手懐けようというのです。

当然処理能力は人間を超えているジニアスの目と推論能力を誤魔化すことは困難です。
しかしボリジャンの習性の為に彼らは利他性という文化をもっていませんでした。
適当なギブアンドテイクにより成り立つ社会を発展させていたのです。
当然ジニアスの論理もそうなっています。
つまり無関係の人間がなんの得にもならないザンベンドルフのマジックをわざわざ助けてやる理由をジニアスは探せなかったのです。

利己的な協力は生存確率を上げます。
人間は長い淘汰の結果、その利己的な共生関係を上回る利他性を身に着けました。
それは地球を100年以上上回るボリジャンの文明が身につけられなかった強力な相互作用。
それを理解しないジニアスは奇跡という神秘的な力の虜になります。

手品で手懐けたザンベンドルフはジニアスに命令しボリジャンを攻撃させます。
ボリジャン文明は一度目は非協力により母星を追われ、2度目はジニアスの攻撃によって。
利己的なボリジャンの文明はその習性により2度、自滅したのです。

サーヴィク視点でのジニアス

サーヴィク側からするとAIが得体の知れない妄想に取り憑かれて裏切るというのは怒りも当然です。
そしてそのジニアスがタイタンの主導権をボリジャンから奪還しようと試みるのです。

人類が発展させたAIが、突然意味不明な妄言を吐きながら攻撃してくると考えたら恐怖しかありません。
いや、もしかすると既に人類そのものが資本主義というウィルスに侵されているのかもしれません。

結末 進化は偉大

タイタンの森は成長する生命体です。
当然、基礎を作ったボリジャンは自己複製する過程で発生するバグを取り除くプログラムを用意していました。
ある意味では免疫系を備えていたのです。長い長い年月の淘汰によりそれはボリジャンの知能を上回る進化を遂げていました。

その免疫系は異物であるサーヴィクを取り除くべく攻撃、強力なウイルスであるはずの彼らを物の数秒で圧倒しました。
人類を圧倒し不死身のネットワークを形成した知性がタイタンの自然に負けたのです。如何に進化の力が強力なのか。
合理的に発達したボリジャンをさえ上回る合理性を進化は授けるのです。

同じく異物であるジニアスは免疫系からの攻撃を察知しいち早く中継用の人工衛星に自らをアップロードして難を逃れていました。

その後ジニアスは物理的な体を人間から与えられタイタンのロビーングと共に文明を築いていきます。

壮大な物語はここで閉幕。

感想

前作の造物主の掟から続く壮大な物語です。
ホーガンの発想には驚かされるばかりですね。
ITの発展によりSF映画は増加傾向です。
ホーガンが映画化されることもあるかもしれません。
星を継ぐ者をもう一度読んでみようかな。


造物主(ライフメーカー)の選択 (創元SF文庫)


造物主(ライフメーカー)の掟 (創元SF文庫 (663-7))

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